るんるんららら~♪

 

 

柔らかな明るい器の中にふと渦がひとつ出来たかと思うとそれに続いてひとつまたひとつと大小さまざまな渦があちこちで出来始め、渦が別の渦を巻きこんで大きな渦になったかと思えば、大きな渦が壁にぶつかっていくつもの小さな渦となる。

渦同士が凝集しては離散しを繰り返す。

光と熱をときに強くときに弱く発しながら波打ち、泡立ち、飛沫を上げ、きらきらとほとばしってゆく。

その継起的な複雑な生成の中で、踊りを踊っているのか踊りに踊らされているのかあらかじめずっとふたつでひとつのことを問うているふたつの問いをめぐって、強度と質がたまたまどうしようもなく特殊なふるまいをふるまう。

私とあなたをかたちづくる。

あるいは、私とあなたの踊りをかたちづくる。

可塑性のある何かしらの素材が引き千切られたり叩きつけられたりしながらこねあげられ、とうとう一体の人形を立ちあがらせるようにして。

 

私とあなたは目を覚まし、拳を握っては開き、肉体がきちんと作動することを確かめると、手と手を取りあってくるくると踊りはじめる。

私が右足を出せばあなたは右足を出してあなたが左に回れば私もまた左に回る。

どちらが速すぎるのか(もしくはどちらが遅すぎるのか)……

どちらがリードしているのかわからない微妙なずれの中で私もあなたも互いの手だけは離さないでいる。

相手の皮膚のしっとりとした触感。肌理細やかさ。熱。脈拍。

手が手を握り手に握り返される手と手の握りあいがどちらから始められたのかをいつの間にか思い出せなくなっている。

私はあなたとふれているところから裏返しになってゆく。

内側が外側になる。

身体中の産毛がいっせいに逆立つ感じがして実際に私はそのざわざわという音を聴く。

あなたの息づかいを、鼓動を、もともとじぶんのものであったかのようにはっきりと感じ取る。

あなたもまた裏返しになってゆく。

私の皮膚があなたを覆ってあなたの皮膚が私を覆う。

右の手の平の内の空虚なポイントを起点として私とあなたはコインの裏と表みたいにぴったりと貼りついたまま離れなくなる。

 

あなたが好き?というと私は好きという。

あなたが良い?というと私は良いという。

これがずっと続けばいいのにね。これがずっと続けばいいのにな。

 

込み入ったステップをふむたびに服の裾がひるがえり色鮮やかな格子模様をえがき出す。玉虫色のホログラムの格子模様。色彩の配置をたえまなく入れ替える格子模様。

 

私とあなたは互いの頬に左手を当てて、耳に触れる。

顎をなぞる。

互いの首を甘く噛む。

歯自体は骨と同じで神経を奥深くにしまいこんでいるから無感覚だけれど皮膚のいきいきとした弾力がじぶんのものではないはずの痛みをどういうわけかふしぎと感じ取らせる。

頭を離すと、歯形がじんわりと赤くにじんだ。

私はうれしくなった。

あなたもまたうれしくなったのではないかと思う。

 

私とあなたは何となく今までの軌跡をふりかえり、私とあなたの幽霊のような残像がゆっくりと薄らいでゆきながらいくえにも重なりあって層を成しているようすを目撃する。

私とあなたは顔を見合わせてきょとんとする。

どちらからともなくぷっと噴き出したかと思うとふたりそろって爆笑する。

私がいてあなたがいるように、私はいた。

あなたはいた。

私とあなたの幽霊とだれかが手続き間違いか何かで出会ってしまうことがあったら、面食らうに違いないだろう。それからたぶん少しだけ顔を赤らめるはずだ。

 

この柔らかな明るい器の中で私はあなたになりあなたは私になり、私もあなたも私とあなたの終わりのない踊りの間に繰り返し異なってゆく。

 

踊りと踊り手をどうして区別できようかという異国の詩人のことばそのままに、私とあなたはどちらが踊りでどちらが踊り手だったかの唯一解を幽霊のレイヤーの遥か彼方に置き忘れ、ただ単に、あまりにも遠いがために取りにゆけず、でも今のところ大丈夫だ。

たとえ私もあなたも継起的な複雑な生成の中で束の間こんがらがった結び目なのだとしても、たとえいつの日か前触れなくするりとほどけてまったく無くなってしまう結び目なのだとしても、私とあなたはその日が来るまで、この、複数的で重層的な暗号のような踊りを踊り続けることだろう。

私もあなたも私とあなたで解読しながら生成され生成しながら解読される自己言及的な素敵な暗号なのだから。

 

そんでもって今もいまだに私とあなたは踊り続けているわけだけれど、うまくいかないことがあるといつもいつも人のフードに手をつっこんでゔう~ってするアレいい加減やめてくれません?